1-11『巨大蜘蛛との戦い』


月詠湖の王国 
燃料捜索隊 野営地付近


自衛、隊員Dは鍛冶兄の案内で、朝から周辺の地形調査を行っていた
昼前にはそれも大方終わり
ジープは今現在、野営地へと戻る道を進んでいる
自衛は後席で、鍛冶兄に細かい部分を確認しつつ、
調べた情報を地図に記入している

鍛冶兄「にしても悪かったな、買出しを手伝ってもらっちゃって。」

ジープの左右には、荒道の町で買った食糧やら雑貨やらの入った袋が大量に下がっていた

自衛「かまわねぇ。いきなり押しかけて騒がしくしてんだ。こんくらいはな。」

鍛冶兄「そのへんは、立ち寄るキャラバンとかで慣れてるからいいけど、
     まぁ、助かったよ。
     こんな大量の買出しは、普段じゃなかなかできないから。」

自衛「しかしよぉ、お前らの家、集落や川から大分離れてるが
    水の確保とかはどうしてんだ?」

鍛冶兄「うちは鍛冶妹が転移魔法を使えるから、それと雨水で
     なんとかなってる。」

隊員D「ほぉー、便利なもんだ。」

自衛「聞こうと思ってたんだが、お前らなんであんな辺鄙な場所に住んでんだ?」

鍛冶兄「あー、確かに疑問に思うよな。
     どっから話すか…
     うちの親父さ、昔は世界中を歩き回ってた身なんだよ。」

隊員D「冒険者ってやつか。」

鍛冶兄「そんな立派なもんには見えなかったけどな。」

隊員D「ところでお袋さんは?」

鍛冶兄「お袋は俺等がガキの頃に死んだ。だから、親父も昔はそこそこ家にいたんだが…
     俺等が成長すると、俺や妹を親戚に押し付けて、長期間の旅にでるようになってな。
     我が親父ながら呆れ返るよ。」

自衛「で?」

鍛冶兄「ああ、そんで俺と妹はそれまで親戚と王都に住んでたんだが…
     五年くらい前かな…?
     それまでで一番長い旅に出てた親父が、ある日突然帰ってきたんだ。
     それまでは、帰るときには前もってキャラバンに伝言を託したりしてたのに。
     そして、理由もいわずにここに家を建てて、一人で暮らし始めたんだ。」

隊員D「はぁ?なんでだ?」

鍛冶兄「分からない。何か抱え込んでるのは確かだが、
     何度問いただしても話そうとしないんだ。
     それどころか、口数は極端に少なくなって、年々皺が増える一方…
     で、ほっとく訳にもいかないから、俺と鍛冶妹が一緒に住み着いてるってわけ。」

隊員D「ほぉー…」

自衛「ドブみたいに迷惑な親父だな。」

隊員D「ぶっ!し、士長…」

鍛冶兄「いや、俺もそう思うよ…でも、親父であることに代わりはないし、
     不服な話だが、町の連中からは良く似た家族だなんて言われる。
     だから、何があったかは分からないが、ほっとくわけにはいかないんだ…」

隊員D「よくできたお子さんだな、お前」

鍛冶兄「ああ…ありがとう」


一方

原油の沸く荒地からさらに東へ約4km
荒地を越えた先にある森

隊員C「ああ、糞歩きにくい森だ!」

人の手のほとんど入っていない森の中を、
隊員C、鍛冶妹、支援Aの三人は進んでいる

鍛冶妹「ねー、何もこんな奥までこなくても…」

支援A「森の入り口で切り出した奴じゃダメなのかよ?」

隊員C「当たり前だ。あの細さじゃ、加工した後の強度がたかがしれてる。
     頑丈な木が最低でも3〜4本はいる。」

三人は頑丈な巨木を探しに森を探索しているのだった

鍛冶妹「正直、あんまりここに長居はしないほうが…」

隊員C「んなこたぁ、言われるまでもねぇんだよ!」

鍛冶妹「うー、そんなに噛み付いた言い方しなくても…」

支援A「気にすんなよ。隊員Cは常に嫌味を吐いてないと呼吸が止まっちまうんだ。」

隊員C「言ってろ。」

隊員Cは銃剣で邪魔な草木を切りつつ、先行する

ズゥゥゥン…

支援「あ?」

進もうとした瞬間、遠くから鈍い振動が聞こえた

ズゥゥゥゥゥン…

隊員C「!」

鍛冶妹「う!?な、何!?」

隊員C「黙れ!動くな…」

隊員Cが静止をかけ、周囲が静けさに包まれる

ズゥゥン…! ズゥゥン…!

振動の間隔が狭くなり、音は次第に近づいてくる
さらに、ミシミシと木の倒れる音も

支援A「おぉい…やばいんじゃねぇか?」ジャキッ

軽機を構え、辺りを見渡す支援A

隊員C「おい!この音はなんだ?」

鍛冶妹「わ、わかんないよぉ!」

隊員C「糞が!この役立たずガイド!」

鍛冶妹「ちょ、ひでぇ!言わせておけば!!」

反論しようとした鍛冶妹だったが…

ミシミシミシ…

鍛冶妹「!?」

視界の先の木々が左右に割れてゆく、そして…

ズゥゥゥゥゥン!!

隊員C・鍛冶妹・支援A「!?」


燃料探索隊 野営地


ブロロロロ…

隊員D「あー、ついたついた」

鍛冶兄「…すげぇな、あれだけ回って半日もせずに帰ってきたのか…」

自衛達のジープが野営地に帰還する

自衛「ん?」

エンジン音が消えると、野営地が妙に騒がしいことに気づいた

自衛「なんだ?」

ジープから降りると、指揮車の近くにいた衛生が駆け寄ってくる

衛生「士長!戻りましたか!」

自衛「なんかあったのか?」

衛生「とにかくこっちへ」

補給が切り出しに向ったトラックと通信をしている

補給「…わかった、応援をそっちに向わせる。それまで下手に動かないでくれ。」

自衛「補給二曹、何があったんで?」

補給「ああ自衛、戻ったか。切り出しの連中から無線連絡があったんだが、
    森に入った隊員C達との通信が途切れたらしい。」

自衛「…んだと?」

衛生「数分前から応答がないそうです。それと、鍛冶妹さんも一緒だそうで…」

鍛冶兄「え!」

鍛冶兄の顔に焦燥が浮かぶ

隊員D「何があったってんだ…?」

補給「わからん。ただ通信機が故障しただけかもしれんが…楽観はできまい。」

指揮車の車上ハッチから82車長が出てくる

82車長「二曹、指揮車は準備完了です。いつでも出発できます。」

補給「分かった。自衛、必要な装備、人員を揃えて
    指揮車と一緒に向こうまで行ってくれ!」

自衛「了解。ったく、厄介ごとに事欠かねぇぜ」



ジープと指揮車は森の入り口へ向けて走る

自衛「あそこ、なんかやばい生き物でも生息してんのか?」

鍛冶兄「いや、あの森は獣の類もほとんどいないはずなんだが…くそ、鍛冶妹…」

隊員D「あ、あそこです。」

切り出しに向ったトラックが、森の近くに止まっている

特隊A「おーい、ここだ!」

ジープと指揮車はその脇に停車した

自衛「おい、どうなってんだ?」

特隊A「わからん。隊員C達、頑丈な木を探しに森の奥に入っていったんだが…
     20分ほど前から、定時連絡に応答しなくなったんだ。」

自衛「やばいな…」

自衛達は森に視線を向ける

82車長「しかし、鬱蒼とした森だな…これじゃ車両は入れねぇぞ…」

隊員D「指揮車でも無理っすか?」

82車長「強引にいけなくもないが…下手すると、
     どっかに引っかかって行動不能になる可能性がある。」

自衛「しゃあねぇ、俺と隊員Dで森に入る。隊員D、携帯放射器を持て。」

隊員D「うす。」

自衛達は装備を持ち、ジープを降りる

82車長「随時連絡をよこせよ。」

自衛「わーってる。」

鍛冶兄「待った、俺も一緒に行かせてくれ!妹が心配だ…」

自衛「別にいいが、なんかあったら安全は保障はできねぇぞ」

鍛冶兄「大丈夫、これでも戦える身だ」

鍛冶兄は背に背負っていた斧を手にとって見せる

自衛「分かった、行くぞ」



森の中へと進入する自衛達

隊員D「なんつー森だ、全然人の手が入ってないんじゃねぇか?」

生い茂る草を鉈で切り、
そこらじゅうに伸びた木の枝を掻き分けながら進む

隊員D「視界が悪い…」

自衛「よーく目ん玉見開けよ。」

ガサガサ…

鍛冶兄「ん?」

隊員D「何だ今の?」

鍛冶兄「何か物音が…たぶん左から…」

バサッ!

隊員D「あぁ!?」

突然、草むらから何かが飛び出して来る

ドガッ!

鍛冶兄「がっ!?」

そして飛び出してきた何かは、鍛冶兄へ突進をかました
鍛冶兄は体勢を崩し、草むらへ倒れる

ゴブリンA「キキィ!」

隊員D「げ!これ、ゴブリンだぜ!」

鍛冶兄「く、くそ!」

鍛冶兄はゴブリンを退けようとするが、草木に阻まれ思うように動けないでいる

自衛「どけ!!」

ドガッ!

ゴブリンA「ギュゲッ!?」

自衛は、鍛冶兄に覆いかぶさったゴブリンを横から蹴り飛ばした

ドドド!

ゴブリンA「ギョ!?」ブシュッ

そして地面に転がったゴブリンにバースト射撃を食らわせる

鍛冶兄「え…!?」

自衛「隊員D、警戒しろ!」

隊員Dの指示をとばしつつ、鍛冶兄に手を貸し、彼を引き起こす

自衛「大丈夫か?」

鍛冶兄「あ、ああ…」

返事を返しつつも、鍛冶兄の視線は頭部が弾けたゴブリンに向けられている

鍛冶兄「すまない…しかし、今のどうやったんだ…?」

自衛「後だ!近くの木に隠れろ、他にもいるぞ!」

鍛冶兄を近くの木の後ろに押し込み、
自衛は別の木へカバーし小銃を構える

ボウ!

ゴブリンB「ギョギ!?」

ショットガンの発砲音とゴブリンの悲鳴

隊員Dが別のゴブリンを射殺した音だった

隊員D「またこいつらかよ…!士長、正面からわらわら来ます!」

自衛「蹴散らせ!接近させるな!」

自衛達は迫り来るゴブリンを迎撃しにかかる

ドドド!ドドド!ドドド!

ゴブリンB「ギュ!?」ドチュッ

ゴブリンC「ギャ!」バッ

自衛は小銃のバースト射撃でゴブリンを蹴散らしてゆく

隊員D「野郎!」ボウッ

ゴブリンD「ギュイ!?」

その弾幕を潜り抜けて接近してきた固体は、隊員Dが射殺

鍛冶兄「すげぇ…」

隊員D「おい、右から来るぞ!」

鍛冶兄「ッ!くっそ!」ドガッ

鍛冶兄はゴブリンの落とした手斧を掴み、投擲する

ゴブリンE「ギュゴッ!?」ブシュッ

手斧はゴブリンの顔に直撃した

鍛冶兄「よし!」

自衛「あいつで最後だ!」ドッ

ゴブリンF「ギビッ!」ブシュッ

最後のゴブリンの頭が銃弾で弾け、周囲は再び静かになった

隊員D「…敵影無し!」ジャキ

隊員Dがしばらく周囲を見渡した後に、報告を上げる

自衛「これで終わりか」

鍛冶兄「…あ、あんたら…どうやったんだ?なんの魔法だそれ?」

隊員D「魔法じゃねぇ、こういう武器なんだ」

鍛冶兄「それが武器…?」

まじまじと隊員Dの持つショットガンを見つめる鍛冶兄

自衛「後だっつたろ。交信ができないのはこいつらが関わってるかもしれねぇ。
    隊員C達を探すぞ」

ゴブリンたちが向ってきた方向に向けて、前進を再開
自衛達はしばらく森の中を進む

隊員D「…何か聞こえませんか?」

自衛「あ?」

しばらく歩いた所で、
木々の先から、散発的に何かが爆ぜる様な音が聞こえてきた

パパパ・・・

自衛「ありゃ銃声だ」

隊員D「隊員C達か!?」

音の方向に向けて走り出す

パパパ!パパパ!

自衛「この先だ!」

ゴブリンG「キキィ!」

隊員D「どわっ!?」

走っている途中、突然木の陰から現れたゴブリンと鉢合わせる

自衛「邪魔だ!」

ドガッ!

ゴブリンG「ギッ!?」

自衛はゴブリンを再び蹴飛ばす

自衛「死ねや!」

ドス!

ゴブリンG「ギョォォ!?」

そして体勢を崩したゴブリンに銃剣を突き刺した

ゴブリンG「ギュ…」

息絶えるのを確認し、銃を放り出すようにして
ゴブリンの体から銃剣を引き抜く

隊員D「くそ、ビビらすなよ…!」

鍛冶兄「おい、あれ!」

鍛冶兄が示した先に、ゴブリンが複数見えた

隊員D「どこに行くんだあいつら?」

ゴブリンたちは自衛達に背を向けて、反対方向に走っていく

自衛「逃げ出してるって雰囲気じゃねぇな、追うぞ。」

ゴブリンたちを追って木々を抜けると、そこには小さな窪地があった

バババババ!

鍛冶兄「うお!?」

支援A「うぇえっへっへぃー!どうしたどうしたブッサイク共!さぁ、かかってきやがれ!」

窪地の中央には支援Aの姿があった

隊員D「なんてこった、あいつ一人だけだぞ!」

支援A「おらおら!気合入れねぇとお友達とおんなじように、
    口から泡吐いて"あうぇ〜"ってなっちまうぜぇ!?おぉい!!!」

叫び散らしながら、四方から襲い掛かるゴブリンに向け、軽機を撃ちまくっている
彼の周囲にはゴブリンの死体が無数に転がっていた

鍛冶兄「…すげぇ」

自衛「馬鹿が!カバーもしねぇで撃ちまくってやがる!」

バババ!バババ!バババ!

ゴブリンH「ギュギョ!?」ビシュッ

ゴブリンI「ギェッ!」グチュッ

支援Aの挙動は見ていてひやひやする物だが、
割と確実に襲い掛かるゴブリンを撃ち抜いている

支援A「うへへへい!森ん中でトマト祭り開催中だぜ!Babyeeeeeeeeee!!!!」ドドドド

自衛「隊員D!窪地の隅にある一際でかい巨木が分かるか?
    あそこで窪地全体をカバーしろ!」

隊員D「了解!」

隊員Dは沸いて出てくるゴブリンを牽制しつつ走る

自衛「鍛冶兄は俺と来い!あの撃ちまくってるバカを援護する!
    姿勢を低くしろ、奴が銃口を向けてる先には絶対に出るな!」

鍛冶兄「わ、分かった!」

自衛「死ねコラ死ねぇぇ!」ドドド

支援Aに接近つつ、木立から現れるゴブリンに向けて掃射を加える

ゴブリンの群れA「ギュ!?」「ギェビ!?」

鍛冶兄「ッ!すげぇ…お、おいあんた!無事か!?」

支援A「おーう!やっと助けが来たか!うれしぃぜぇ!」ドドドド

自衛「バカかお前は!カバーもしねぇで!来い!」

支援Aを引っ張って、近くの倒れた巨木に隠れる

隊員D「正面からわらわら来るぞ!!」ボウッ

自衛「支援A!木立に撃ちまくれ!」

支援A「オーイェー!!!」ドドドドド

自衛「隊員D、脇から奴らに食らわせろ!十字砲火だ!」

ゴブリンの群れB「ギュ!」「ギェェ!?」

掃射によりゴブリンの群れは次々と倒れていった

隊員D「…今ので最後か」

自衛「集まれ」

窪地の中央で集合する

支援A「イェィ、助かったぜ!ファンに囲まれて難儀してたんだ。」

隊員D「よくいうぜ」

自衛「こんな開けた所で撃ちまくりやがって、おめぇ本当に教育隊出てきたのか?」

支援A「ついついハイになっちまってよぉ、次から気をつけるぜ」

自衛「ったく、で、隊員Cとあの娘はどうした?」

支援A「あー、それが逃げ回ってる途中ではぐれちまってよ…」

隊員D「逃げ回る?こいつらからか?」

支援A「いんや、もっとバカでけぇ、なんつーか蜘蛛っつーか蟹っつーか
     そんなようなバケモンと鉢合わせちまってよ。」

自衛「なんだと?蜘蛛だぁ?」

支援A「何かはしらねぇけど、とにかくバカでけぇ奴だった。」

自衛「おい、そいつが何かわかるか?」

鍛冶兄「いや、聞いたこともない…それどころか、この森にはゴブリンだって
     いないはずだぞ…」

隊員D「ホントかよ、一体どうなってんだ…」

自衛「おい、無線はどうした?」

支援A「俺が持ってるぜ、さっきのドンパチで使う暇はなかったけどなぁ。」

支援Aは背負っていた無線機を差し出す

自衛「貸せ」

無線機を地面に置くと、隊員Cのインカムへと呼びかける

自衛「おい隊員C、応答しろ。聞こえるか、隊員C!……野郎、応答しねぇ」

隊員D「なんかあったのか…?」

自衛は隊員Cへの呼びかけを中止し、指揮車へと繋ぐ

自衛「ハシント、シキツウ応答しろ。こちらジャンカー4ヘッド。
    4-1の支援A一等陸士を発見した。」

82車長『こちらシキツウ。支援A一人だけか?』

自衛「ああ、どうにも蜘蛛の化け物に襲われてはぐれたらしい」

82車長『蜘蛛の化け物!?なんだそりゃ?』

自衛「俺が知るか。それと、森の中にゴブリンの群れがうろついてる。
    そっちに行くかもしれねぇから、十分警戒しろ。
    俺達は引き続き4-1の隊員C達を捜索する」

82車長『…わかった、野営地にはこっちから報告しとく。無理すんじゃねぇぞ』



数分前 森の中のある場所

隊員C「…どうやら追って来てはいねぇようだ」

隊員Cと鍛冶妹は木の陰に身を隠し、周辺の様子を伺っている

鍛冶妹「ひぃ〜…死ぬかと思った…」

隊員C「おい!一体なんだあの蜘蛛みてぇなバケモンは!?」

鍛冶妹「だから知らないってばぁ!あんなのこの森にいるなんて聞いたことないよぉ!」

隊員C「糞ったれが!支援Aはどっかいっちまうし、無線もあいつが持ってんだぞ!
     どーすんだ!?」

鍛冶妹「そんなこと言われても〜…」

ガサ!

鍛冶妹「いっ!?」

突如、背後の草むらがわずかに揺れ動いた

鍛冶妹「な、何…!?」ソォッ

鍛冶妹は確認にため覗き込もうとする

ゴブリンK「キィィ!」バッ

鍛冶妹「ひゃぁ!?」

隊員C「ゲッ!」

だが、覗き込む前に、草むらからゴブリンが飛び出して来た
ゴブリンは手斧で鍛冶妹に切りかかろうとする

鍛冶妹「ひっ!…うわっ!?」グイッ

隊員Cは硬直する鍛冶妹を押しのけ

隊員C「野郎!」ボグッ

ゴブリンK「ギュッ!?」ドザァ

空中にいるゴブリンの腹部に蹴りを入れた
ゴブリンの体はは近くの木に叩き付けられる

隊員C「おらぁっ!」ドスッ

ゴブリンK「ギュヒィ…!?」ブシュ

そしてゴブリンに向けて走り込み、腹部に銃剣を突き刺した

隊員C「こいつらか!糞が!!」

隊員Cは悪態を吐きながら、ゴブリンの死骸を脇へ蹴りへ転がす

鍛冶妹「こ、これ…もしかしてゴブリン…?ちょ、どういうことなの…!?」

鍛冶妹は恐る恐る死体を覗き見ながら、疑問の声を上げる

隊員C「はぁ?なんで俺に聞くんだ?こいつらここを住処にしてんじゃねぇのか?」

鍛冶妹「この森にはゴブリンなんていないはずだよ!わけわかんない!
     何が起こってるのぉ……!?」

隊員C「知るか!泣き喚いてる場合じゃねぇ、他にも来るぞ…!」

鍛冶妹「うぇ!?」

周囲からガサガサと草むらや木の枝の揺れる音が聞こえてくる

ゴブリンL「キュィィ!」バッ

そしてまたしてもゴブリンが襲い掛かってきた

鍛冶妹「うひゃぁ!?」

隊員C「うぜぇんだよ!」ドガッ

ゴブリンL「ギュッ!?」

隊員C「死ね糞!」ドッ

ゴブリンL「ギュヒィ!?」バシュッ

飛び掛ってきたゴブリンを蹴り倒し、銃剣を突き立てる隊員C

隊員C「わめいてないで戦えボケェ!その斧は飾りモンか!?えぇ!?」

隊員Cは鍛冶妹の背中にある斧を示しながら怒号を飛ばす

鍛冶妹「ううう…分かった分かった!」スッ

ゴブリンM「キュィ!」バッ

別のゴブリンが現れ、鍛冶妹へと襲い掛かる

鍛冶妹「ええいッ!」

自分に迫るゴブリン向けて、鍛冶妹は斧を振り下した

ドスッ!

ゴブリンM「ギュゴ!?」ブシュッ

斧はゴブリンの頭部を真っ二つにし、鮮血と脳髄があたりに飛び散る

鍛冶妹「ひぃっ!?ち、血と脳みそがぁ!」

隊員C「ビビるなボケ!お前の右から来るぞ!」

ゴブリンN「ギュギュ!」

鍛冶妹「うぅ、やぁぁ!」シュッ

ゴブリンN「ギュヒ!?」

横に払われた斧がゴブリンの腹を切り裂く

隊員C「おい逃げるぜ、来い!」

ゴブリンからの襲撃が止んだ隙を突いて、その場から走り出す二人

隊員C「なんだってんだチクショウ!?」

鍛冶妹「ち、血が体中に〜!」

隊員C「んなもん気にしてる場合か!それよりなんだお前、そのへっぴり腰はよぉ!?」

鍛冶妹「ひでぇ!?なによぉ!お前こそ、そんなナイフ一本しか持ってないくせに!」

隊員C「……9mm弾は数が少ねぇのによぉ…よっし、スライドは問題ねぇ!」

鍛冶妹「無視しないで聞けよぉ!この……ぶ!?」

鍛冶妹は突然停止した隊員Cの背中に顔をぶつけた

鍛冶妹「きゅ、急に止まんないでよ!」

鍛冶妹は抗議するが隊員Cはそれを無視し、来た方向へ振り返る

隊員C「おいお前、俺の後ろと周辺を見張ってろ!」

鍛冶妹「な、何言ってんの!?あいつらが来るよ!」

隊員C「奴らを迎え撃つから見張ってろって言ってんだよ!」

鍛冶妹「迎え撃つって…?」

言っている間に、視線の先からゴブリンが迫る

隊員C「よっしゃ!バカ正直に直線で追っかけてきやがった!」

隊員Cは姿勢を低くし、9mm拳銃を構える

鍛冶妹「ちょ、ちょっとぉ!何してんの!?っていうかそのそれ何!?」

隊員C「黙れ!気が散る!」

隊員Cは鍛冶妹を怒鳴りつけつつも、照準を合わせる
そして引き金に力を込めた

バン!

ゴブリンO「ギュヒ!?」

先から接近するゴブリンの頭から血が噴出す

鍛冶妹「へ?」

バン!バン!

ゴブリンの群れD「ギュイ!?」「ギェ!」

等間隔での発砲音に合わせ、ゴブリンが地を噴出し倒れてゆく

鍛冶妹「え、な、何?どうなってんの!?」

困惑する鍛冶妹を尻目に、隊員Cは最後のゴブリンに照準を合わせる

隊員C「…お前で最後だよ、不細工チビ!」

バーン!

ゴブリンP「ギュ!?」ドシュ

最後のゴブリンが銃弾を頭に食らい、後ろに弾け飛んだ

隊員C「…よっしゃ!さすが俺様!」

軽口を叩きながらも隊員Cは周囲に気を張り続ける

鍛冶妹「…え?ちょっと、お前今のどうやったの!魔法!?
     にしては詠唱もなんもなかったけど!?」

隊員C「いちいちうっせぇガキだな…あのなぁ、こいつは…」

ズゥゥン…

隊員C「あ!?」

鍛冶妹「ふぇ!?」

隊員Cの言葉を遮るように、唐突な地響きが響き渡る

鍛冶妹「こ、この音…」

隊員C「ふざけんじゃねぇぞ…おい…」

ズゥゥゥゥゥン…

接近する地響き

ミシミシミシ…

付近の巨木が悲鳴を上げている、そして

ボッゴォォォォォン!!!


巨大蜘蛛「ギシャァァァァァァッ!!!」


隊員C「糞がぁ!!!」

鍛冶妹「ひゃああああああああ!?」

巨木をなぎ倒し、彼らの目の前に、全高7〜8mはあろうかという巨大な蜘蛛が姿を現した

隊員C「逃げっぞぉぉ!!」

鍛冶妹「また出たぁ!なんなのよぉ!?」

二人は反対方向へ全速力で走り出した

巨大蜘蛛「ギャァァァァ!!」ズズッ

巨大蜘蛛は左右の木々をなぎ倒し、二人を追いかけだした

隊員C「追っかけてきやがる!」

鍛冶妹「いやぁぁぁ!」

巨大蜘蛛「ギシャァァァ!」

ドォン!ドォン!ドォン!

巨大蜘蛛はその巨大な多数の足を器用に動かし、
見かけに反した速さで二人を追う

隊員C「ヤバイ!あいつけっこう早いぞ!?」

鍛冶妹「やぁぁ!」

二人は地面が草むらのためあまり速い速度で走れない

自衛『ザザ…おい隊員C、応答しろ。聞こえるか、隊員C!』

その時、隊員Cのインカムに通信が入った

隊員C「こんな時にかけてくんじゃねぇよ!!」

だが、もちろん応答する余裕などない

鍛冶妹「ね、ねぇ!さっきやったみたいに、なんとかなんないの!?」

隊員C「あ!?」

鍛冶妹「だから、さっきの変な道具使ってあの蜘蛛倒せないの!?」

隊員Cの手にある9mm拳銃を示して鍛冶妹は言う

隊員C「脳みそ腐ってんのかお前は!?あんなバケモンに9mm弾が聞くわけねぇだろ!」

鍛冶妹「そんなの知らないよぉ!とにかく、なんとかならないの!?」

隊員C「俺にばっか頼るんじゃ、どわっ!?」

鍛冶妹「へ?って、ひゃぁ!?」

二人は逃げるのに夢中で、前方が斜面になっていることに気づいていなかった
足を滑らせ、そのまま斜面を滑り降りてゆく

隊員C「べ!」ボサッ

鍛冶妹「むみゅ!」バサッ

そしてその先の草むらに突っ込んだ

ズゥン!ズゥン!

巨大蜘蛛「ギャァァ!」

斜面の上に巨大蜘蛛が現れる

巨大蜘蛛「…ギャァァ!」

ズゥン!ズゥン!

しかし、巨大蜘蛛は二人を見失ったのか、別の方向へ行ってしまった

ガサガサッ

二人は巨大蜘蛛が去ったのを確認し、草むらから出た

隊員C「…行っちまったみてぇだ」

鍛冶妹「死んだ…あたし死んだ…」

鍛冶妹は斧を支えに地面にへたり込む

隊員C「ああそうかよ、じゃあ死体は置いてっても問題ねぇな」

鍛冶妹「ちょ、ひどい!」

隊員C「オラ、冗談言ってる暇があったら動くぞ。奴から離れるんだ」

移動しようとした時、再びインカムに通信が入った

自衛『ザザ…隊員C応答しろ。聞いてねぇのか?それとも死んだか!?』



窪地から数十メートル地点

隊員C『生きてるよバカ!勝手に殺すんじゃねぇ!』

再度隊員Cへの通信を試みた結果、応答が返ってきた

自衛「生きてんならちゃんと答えろ」

隊員C『ふざけんな!こっちゃ今さっきまで、どえらい目にあってたんだぞ!?』

自衛「ゴブリンか?それとも蜘蛛のバケモンか?」

隊員C『両方のお得なセットだよ!ホントにやばかったんだぞ!?
     たった今さっきまで蜘蛛のバケモンと鬼ごっこしてたんだからな!』

自衛「そいつは大したもんだ」

隊員C『うるせぇ。それよか、逃げてる最中に支援Aがはぐれちまったんだけどよ?』

自衛「奴なら今さっきこっちで拾った。巨大蜘蛛の件も支援Aから聞いた所だ」

隊員C『ああそうかい、ならぜひとも早急にお助け願いたいもんだね!
     こっちだけじゃどうにもならねぇ!』

自衛「お前ハチヨンはどうしたんだ?使わなかったのか?」

隊員C『使う余裕なんざあるわけねぇだろ!周りは遮蔽物だらけで
     鬼ごっこしながら、お一人様で射撃体勢に持ってくなんざ自殺行為だ!
     ああ、お一人様じゃなかったな。足手まといをもう一名様追加だ。』

鍛冶妹『あ、足手まといってあたしのことか!?』

無線の向こうから鍛冶妹のギャーギャーとわめく声が聞こえる

鍛冶兄「待て!今の鍛冶妹の声!?鍛冶妹は無事なのか!?」

聞こえてきた鍛冶妹の声に鍛冶兄は食いついた

自衛「おい隊員C、一緒にいたねーちゃんもそこにいるのか?」

隊員C『ああ、糞わめき散らしてうるせぇのなんのって…』

自衛「わかった隊員C。とにかくねーちゃんにインカムを渡せ。」

隊員Cの愚痴を押さえ込み、自衛は無線機のマイクを鍛冶兄へ渡す

自衛「こいつに向けて喋れ、そうすれば向こうに声が届く」

鍛冶兄「時々、箱に向けて一方的に話して、何をしてるのかと思ったら…
     こういうことだったのか…」

とまどいながらも鍛冶兄はマイクを手にとった

鍛冶兄「…鍛冶妹?聞こえてるか?」

鍛冶妹『うわわ!』

無線の向こうで鍛冶妹の驚く声が聞こえる

鍛冶妹『すっげーほんとに聞こえてきた!ホントに兄貴の声だ!』

鍛冶兄「お、おい鍛冶妹、大丈夫なのか?怪我はしてないか?」

鍛冶妹『あ、えっと大丈夫。色々大変だったけど大きな怪我はしてないよ。』

鍛冶兄「そうか、よかった…」

安堵の息を吐く鍛冶兄

鍛冶妹『っつーかこれすごいよ!音響を扱う魔法なんて初めてだよ!』

鍛冶兄「あ、ああ…そうか」

鍛冶妹『まるですぐ側で話してるみたい!ねぇ、これ他にもなんかできたり…』

隊員C『要点だけ言ったら早くはずせ、馬鹿!まだ、近くに奴がいるんだぞ!』

鍛冶妹『わっ!?』

鍛冶妹の声が途中で切れ、雑音が入る

隊員Cが鍛冶妹の着けるインカムを強引に奪ったらしい

隊員C『ザザ…とにかく!こっちじゃどうしようもねぇ。
     今は無事だが早くなんとかしねぇとバケモンの腹ん中だぞ!』

自衛「落ち着けって、今どこにいるか分かるか?」

隊員C『検討もつかねぇ、あっちこっち逃げ回ったからな。
     今、分かるのは方角…あとは、逃げ回った時間を考えても、
     たぶんお前らよりは東にいるはずだぜ。』

隊員D「見つけ出すのはは難しそうだな…」

支援A「信号弾あげりゃ一発だろ?」

自衛「あのブッサイク共とパーティーがしたけりゃ、好きにしろよ」

支援A「イェィ!じゃあまたトマト祭りと行こうぜ!」

隊員D「…ダメだこいつ」

自衛「しょうがねぇ。隊員C、一度西を目指して森を出ろ」

隊員C『結局それかよ』

無線の向こうで、隊員Cはウンザリとした台詞を吐く

鍛冶兄「待ってくれ、方角がわかるのか?」

自衛「ああ、コンパスがあるからな」

鍛冶兄「コン…?」

自衛「こいつだ」

自衛はコンパスを鍛冶兄に見せる

鍛冶兄「これは?」

自衛「赤い針が常に北を示し続けるようにできてる」

鍛冶兄「成る程、こんな道具が…」

自衛「で、なんか思いついたか?」

鍛冶兄「あ、ああ…
荒道の町近くに川があったろ?あの川がこの森にまで続いてるんだ。
     方角が分かるんならまず川に出て、
そこから川沿いに伝っていけば合流できるかも」

隊員D「その川はどっちだ?」

鍛冶兄「南の方角。戻って森を出るよりは早いはずだ。
     ただ…その巨大蜘蛛がうろついてるなら、
     本来なら一刻も早く森を出たい所だけど…」


自衛「俺等は、隊員Cのやつを回収するまで森を出るわけにはいかねぇ」

隊員D「あんたはどうする?無理はいわねぇけどよ」

鍛冶兄「妹を放って逃げられるわけないだろう、一緒に行くよ」

支援A「決まりだな」

自衛「隊員C、森の南に川が流れてるらしいから、そこに向え。
    たどり着いたら川沿いで待機しろ。俺達が川に沿ってお前らを捜索する。」

隊員C『了解。是非とも急いでくれよ』

言うと隊員Cは無線を切った

自衛「俺達も川を目指すぞ」

鍛冶兄「ところで、またその蜘蛛の化け物に出くわしたらどうするんだ?
     君達の武器でなんとかできるのか?」

自衛「奴に合流すれば対戦車火器が使える、それでなんとかするしかねぇ。
    支援A、予備弾は持ってるな?」

支援A「ああ。栄えあるハチヨン射手である隊員Cしゃまの代わりに、
     たーっぷり持ってるぜ」

隊員D「あいつにでかい花火を上げてもらうとしようぜ」

鍛冶兄「…よく分からないが策はあるんだな?」

自衛「ああ。時間が少ない、行くぞ」


再度隊員C視点


隊員Cと鍛冶妹は木や草むらに身を隠しつつ、川を目指す

隊員C「糞見晴らしが悪ぃ…急げ、次行くぞ」

鍛冶妹「ちょ…待ってよ!」

隊員Cが木から木へと走り、鍛冶妹がそれに続く

隊員C「もうちっとキビキビ動けねぇのかお前?」

鍛冶妹「ぜぇ…しょうがないじゃん!あたしあんまり体力ないし、
     普段は長い距離に移動は転移魔法使ってるし…」

隊員C「ったく…そうだ、その転移魔法とやらで森から脱出できねぇのかよ?」

鍛冶妹「使えたらとっくに使ってるよぉ…
     遠くに行くにはあらかじめ魔方陣を用意しておかないと無理。
     魔方陣無しだと目で見える距離が精一杯だよ。」

隊員C「マジで役にたたねぇなお前」

鍛冶妹「また言った!ほんとなんなのよお前!」

隊員C「見えたぞ、川だ」

鍛冶妹「無視すんなぁ!」

しばらく進むと森が開け、川沿いに出た

鍛冶妹「ひぃぃ〜…走ってばっかり…」

隊員C「自衛、聞こえるか?一足先に川縁に着いた」

自衛『こっちが到着するまでそこで待機してろ。十分警戒しろ』

隊員C「分かってる、そっちこそ急げよ」

通信を切り、隊員Cは周囲を見渡す
川縁周辺は木が生えておらず、遮蔽物も少ない

隊員C「ここじゃ、飛び道具のいい標的だぜ…」

そうぼやいた瞬間だった

ヒュルル…

鍛冶妹「ん?」

隊員C「ッ!隠れろ!」ドンッ

鍛冶妹「ぎゃ!?」

隊員Cは鍛冶妹を近くの岩陰へと突き飛ばした
そして自らも岩陰へと飛び込む

ドスッ

そして先程までいた場所に手斧が突き刺さった

鍛冶妹「ひ、ひどい…なにすんの!?」

顔面からダイブした鍛冶妹は抗議しようとするが

隊員C「馬鹿!頭を出すな!」グッ

鍛冶妹「うぎゃ!?」

起き上がろうとした瞬間、隊員Cに頭を押さえつけられ、
再び地面に顔をうずめた

鍛冶妹「厄日だ…」シクシク

隊員C「泣くのは後にしろ!森から沸いてきやがる!」

鍛冶妹「またぁ!?」

自分の顔を抑えながら、鍛冶妹は森のほうに目をやる

ゴブリンQ「キィィ!」

ゴブリンR「キュィ!キュィィ!」

見れば、森からゴブリンの群れが次々に沸いて出てくる

隊員C「応戦すっぞ!」

隊員Cは身を乗り出し、発砲を開始する

バン!

ゴブリンQ「ギュギャ!?」ブシッ

間近に迫った一体の顔面を打ち抜く

隊員C「次、お前だ!」

バン!

ゴブリンR「キュィ!?ギュ!」ダッ

次に奥のゴブリンに向けて発砲したが、命中弾とはならなかった

隊員C「糞が!」バンッ

ゴブリンは左右にちょこまかと動き、銃弾を回避する

隊員C「野郎ブサイク!フラフラすんな!」バンッ

ゴブリンBB「ギュゥ!?」ブシュッ

奥のゴブリンも倒れるが、さらに後続のゴブリンが迫る

ゴブリンの群れE「キュィ!」「キキッ!」「キッ!」

鍛冶妹「いっぱい来たぁ!」

隊員C「おい!ボケッとしてんな!こいつで戦え!」

先程の地面に突き刺さった手斧を鍛冶妹に渡す

鍛冶妹「…もぉー!なるようになれ!」

鍛冶妹は手首のスナップを利かせて手斧を投擲

ゴブリンS「ギョッ!?」ドシュッ

手斧は一匹のゴブリンの顔面に突き刺さった

隊員C「自衛達が来るまで持ちこたえっぞ、気張れ!」


川の上流(西側)

自衛達は川沿いに、隊員Cと鍛冶妹を捜索していた

自衛「おい、この音」

下流から散発的な破裂音が聞こえてくる

鍛冶兄「なんだ?」

隊員D「士長、これ拳銃の発砲音じゃ?」

自衛「ああ、近いぞ」

自衛達は進む速度を速める
しばらく進むと、視線の先に人影らしきものが見えた

支援A「おい、見ろやあれ!」

隊員D「いたぞ、隊員Cだ!」

隊員C達が岩陰に隠れて、ゴブリンと交戦しているのが見えた

鍛冶兄「森のほうを見ろ、ゴブリンに襲われてる!」

自衛「走れ!」

自衛達は交戦地点に接近
ある程度近づくと、付近の倒木や岩に身を隠した

自衛「隊員C、無事だろうな!?そっちの脇まで来てるぞ!」

隊員C『やっとかよ、とっととブサイク共を追っ払ってくれ!
     いい加減、糞うざくてたまんねぇぜ!』

自衛「待ってろ。支援A、森に向けて撃ちまくれ!」

支援A「オーイェー!!!」

支援Aが森から出てくるゴブリンの群れに向けて、発砲を開始

ドドドドドドドド!

ゴブリンの群れE「ギュギュ!?」「ギヒッ!」「ゲヒッ!?」

突然襲いかかって来た5.56mm弾の雨に、
ゴブリンは次々と血を噴出し倒れてゆく

鍛冶妹「い!?な、何!?」

隊員C「頭下げてろ!」

驚く鍛冶妹の頭を抑えつつ、隊員Cはその様子を見守る

自衛「支援A、ハチヨンの予備弾をよこせ!」

支援A「おらよ!」

弾薬袋を支援Aから受けとる

自衛「よし、お前は森の側面に移動しろ!出てくる奴らを真横から殴れ!」

支援A「了解!」

自衛「隊員D、鍛冶兄。支援Aが配置についたら移動するぞ!」

支援Aは森の側面へと移動し、再び射撃を開始した

支援A「イヤッホォーーーーウ!!」ドドドドド

ゴブリンの群れF「ギュ!?」「ギョィ!?」

ゴブリン達は森から出た瞬間に、軽機の銃弾を浴びて倒れてゆく

自衛「よぉし、合流するぞ!」

鍛冶兄「…すっげぇ…」

自衛達は遮蔽物を飛び出し、隊員C元へと走る
そして隊員C達の近くにある岩に駆け込み、隊員C達と合流した

自衛「よぉー、元気か」

隊員C「やっと来やがったか!」バーン

肉薄するゴブリンを退けながらも、悪態を吐く隊員C

鍛冶兄「鍛冶妹、無地か!?」

鍛冶妹「な、なんとか…」

隊員D「ファンがいっぱいだな、いつの間にやら有名人じゃねぇか隊員C」

隊員C「うらやましいか?こんなうぜぇファン願い下げだよクソッタレ!」

自衛「じゃ、あの世へお帰りいただくとしようぜ」ジャキ

自衛「食らいやがれ!」ドドド

隊員D「より、ブッサイクにしてやるぜ!」ボウッ

自衛達が発砲を開始

支援A「どーだ!鉛の雨は心地良いだろ?ブサイク共!」ドドドドド

側面からは支援Aの銃撃も続いており
ゴブリン達は十字砲火に晒されることとなった

ゴブリンの群れG「ギュヒィ!?」「ギュゥゥ!」

弾幕により倒れていくゴブリン達
しかし、中には弾幕を掻い潜り、迫ってくるゴブリンも居た

鍛冶兄「くそ、また迫ってくる!」

隊員D「多すぎるんだよ、ゴキブリかこいつら!?」ボウッ

自衛「右っ側に固まってやがる!隊員D、チャンスだ吹っ飛ばせ!」

隊員D「了解!」キンッ

ボグァ!

ゴブリンの群れH「ギュヒッ?」「ギュッ!?」「ギャゥ!?」

放り込まれた手榴弾により、数匹のゴブリンがまとめて吹っ飛んだ

鍛冶兄「おわっ!?」

鍛冶妹「ひゃ!…ば、爆炎魔法!?」

隊員C「違ぇよ!ったく、あれなは…」

ゴブリンT「キュィ!」バッ

説明しようとした所に、ゴブリンが岩を乗り越え襲い掛かって来た

隊員C「チッ!」

ボウ!

ゴブリンC「ギュ!」キン

咄嗟に撃ち出された弾丸は、ゴブリンの手から手斧をはじけ飛ばした

隊員C「らぁっ!」

ゴブリンT「ギュヒ!?」グチャ

バキッ!

隊員Cはゴブリンの頭を鷲掴みにし、岩にその顔面を叩きつける

隊員C「おらよ!」ドスッ

ゴブリンT「ギュ…!」ブシュ

そして後頭部に銃剣を振り下ろた

隊員C「ざまぁみろ!しわ屑が!」

隊員Cは銃剣を引き抜くと、ゴブリンの死体を放り出した

隊員Cが仕留めたのが最後のゴブリンだったらしく、
川辺は静かになっていた

自衛「全員集まれ。隊員D、森の方を見張ってろ」

隊員D「了解」

全員が川の近くに集合する

支援A「よぉー!隊員C、感動のご対面だな!」

隊員C「ああそうだな。この感動空間に合うBGMが欲しい所だよ、糞野郎」

鍛冶兄「鍛冶妹!大丈夫か!?」

鍛冶妹「あ、兄貴〜…」フラフラ

鍛冶兄にもたれかかる鍛冶妹

鍛冶妹「走りまわってフラフラだよ〜…」

鍛冶兄「…相変わらず体力無いなお前」

鍛冶妹「…ひどい…」バタム

鍛冶妹は脱力し、鍛冶兄の体に突っ伏した

隊員C「お兄さんよぉ?以降、そいつのお守はお前さんに任せるぜ?
     もうこりごりだ…!」

鍛冶兄「あ、ああ。しかし…この森になんだってこんなにゴブリンが?」

鍛冶兄は一帯に転がるゴブリンの死体を見てつぶやく

隊員D「俺らの拠点にも、こいつら難癖つけてきたんだけどよ、
聞けば、イレギュラーな場所にこいつらが現れることが
多いらしいじゃねぇか?」

鍛冶兄「この森だけじゃないのか!?なぜ、そんな…」

自衛「話は後回しだ、移動するぞ」

隊員C「だな、とっととズラかろうぜ!ぼやぼやしてっと…」

ズズゥゥン…

隊員C「げ!?」

鍛冶妹「ひ!?」

森の奥から突如、地響きが伝わってきた

自衛「何だ今のは?」

隊員C「奴だ、さっき言った蜘蛛のバケモンだ!」

ズゥゥン…!ズゥゥン…!

地響きはだんだんと近づき、
森の木々はミシミシと悲鳴を上げる,
そして

ドグァァッ!

巨大蜘蛛「ギシャァァァァ!!!」

木々を薙ぎ倒して、巨大蜘蛛が現れた

隊員D「うげぇ!?」

支援A「おいでなすったぜ!」

鍛冶兄「な、なんだこいつは!?」

各々は大慌てで、森から距離をとるために駆け出す

巨大蜘蛛「ギャァァァァ!!!」

姿を現した巨大蜘蛛は一帯に向けて叫び声を上げた

鍛冶兄「ッ!」

鍛冶妹「ひぅ…!」

辺りの空気が、叫び声によりビリビリと振動する

隊員D「信じらんねぇ…」

自衛「糞うるせぇ虫だ…おい!ボケっとしてんな!」

自衛は隊員Dに予備弾の袋を押し付け、指示を飛ばす

自衛「隊員C、ハチヨンを用意しろ!急げ!」

隊員C「わーってるよ!おい、隊員D、行くぞ!」

隊員Cと隊員Dは岩陰に隠れ、無反動砲の射撃準備を始める

自衛「鍛冶兄、お前は妹と隠れてろ!」

鍛冶兄「ちょ、まて!一体どうする気なんだ!?」

自衛「いいからさっさとしろ!支援A、時間を稼ぐぞ!」

支援A「オーイェー!」

自衛と支援Aは巨大蜘蛛の注意を反らすため
両脇へ展開する

支援A「さぁ巨大蜘蛛ちゃん、こっちだこっち!」

ドドドドド!

軽機で巨大蜘蛛に攻撃を加えるが、
巨大蜘蛛は注がれる銃弾を、その分厚い殻でことごとく弾いていく

巨大蜘蛛「ギャァァァァ!」

支援A「鉛玉は御気にめさねぇみてぇだな!」

自衛「贅沢な野郎だ、眼球のあたりに撃て!」

ドドドドド!

多数ある眼球の辺りに、再び発砲する支援A

巨大蜘蛛「ギシャァァ!」

巨大蜘蛛は銃撃を加えた支援Aの方を向いた

支援A「おーっと、痛かったかぁ?まぁ、まずは軽いスキンシップからってな!」

巨大蜘蛛「ギャァァァァ!!」ゴォォ

支援A向けて咆哮を放つ巨大蜘蛛

支援A「ワーォ!怒っちまったかぁ!?ハッハァー!!!!!」

テンションが上がったのか、支援Aは巨大蜘蛛の咆哮に大声で笑い返した

ダダダ!

巨大蜘蛛に今度は自衛のバースト射撃が降り注ぐ

自衛「どうした、来いや!かわいがって欲しいんじゃねぇのか!?あぁ!?」

巨大蜘蛛「ギュァァァァ!」

巨大蜘蛛が今度は自衛のほうに振り向く
そして、巨大蜘蛛足の一本を思いっきり振り上げた

自衛「おぉ!?」

自衛目掛けてその足を振り下ろす

自衛「危ねぇ!」

横に跳躍し、それを避ける

ドゴォン!

先程までいた場所に巨大蜘蛛の足が突き刺さり
砂埃が上がった

支援A「おい、こっちだ!おぉい!」ドドド

再び支援Aが銃撃を加え、巨大蜘蛛を引き付ける

巨大蜘蛛「ギシャァァッ!」

今度は支援A向けて、再び足を振り下ろそうとする巨大蜘蛛

自衛「支援A!ギリギリまで見てから横に飛べ!」

ドゴォンッ!

支援A「ウワァーオッ!」

まるでアトラクション感覚で攻撃を避ける支援A

自衛「かわいげのねぇ虫野郎だ。隊員C急げ!」

隊員C「やってるさ、黙ってろ!」

ハチヨンの射撃準備を進める隊員Cと隊員D

鍛冶兄「…くそっ!」ダッ

その一方で、自衛達を見守っていた鍛冶兄が

突如、岩から飛び出そうとした

鍛冶妹「ちょ、兄貴!?」

あわててそれを止める鍛冶妹

鍛冶兄「放せ、俺も行く!」

隊員C「何してんだ馬鹿かお前ぇ!?じっとしてろ!」

鍛冶兄「じっとしていろだって!?彼らは戦ってるんだぞ!?
この状況でよくんなことが…!」

隊員C「いいから黙ってここにいろ、ボケが!」

鍛冶兄「そんな!だいたい、君達さっきから何をやってるんだ!?」

鍛冶妹「その筒みたいなのなんなの…?」

隊員D「…おし、完了!二人とも離れるぞ!」

鍛冶兄妹の疑問に答える前に、無反動砲の装填準備が完了した

鍛冶兄「は、離れる?」

鍛冶妹「なんで?」

隊員D「説明は後だ、急げ!」

隊員Dは疑問を抱えたままの鍛冶兄妹を
別の遮蔽物へと連れ出した

隊員C「自衛、準備できたぞ!そこをどけ!」

大蜘蛛をからかう自衛達向けて言い放つ

自衛「とっとと撃て!支援A、離れるぞ!」

自衛は言いながら巨大蜘蛛から退避する
それを確認してから隊員Cはハチヨンを構え
照準をつける

隊員C「無駄にでけぇ図体しやがって」

支援Aを追いかけようとした巨大蜘蛛は、
その巨大な胴体の横腹を隊員Cに見せる形となっていた

隊員C「死んでろ!」

悪態を吐き、隊員Cは引き金を引いた

ボグワァ!!!

構えたハチヨンが爆音を上げる

鍛冶兄「わ!?」

鍛冶妹「ひゃあ!?」

砲口から弾頭が飛び出し、隊員Cの背後にバックブラストが広がる
弾頭は直進しそのまま巨大蜘蛛の巨体へと直撃


ボッガァァァァァン!!!


巨大蜘「ギャァァァァ!!!」

直撃した弾頭は爆裂し、巨大蜘蛛を爆炎で包み込んだ

隊員C「よっしゃぁ!!!」

鍛冶兄「え…」

鍛冶妹「…うそぉ…」

その光景に鍛冶兄妹は呆けるしかなかった
爆炎が収まり、焼け焦げ、地面にへたりこんだ巨大蜘蛛の姿が現れる

支援A「ハッハーッ!焼き蟹一丁あがりだな!」

鍛冶兄「うそだろ…」

鍛冶妹「今の何…?高位の攻撃魔法…?」

隊員D「違う、ああいう武器なんだ。ともかく、なんとかなったな…」

隊員C「ざまぁみろ、糞バケモンがぁ!」

隊員Dが呟く脇で、隊員Cは巨大蜘蛛に罵声を浴びせる

巨大蜘蛛「ギィィ……」

隊員D「おいおい、まだ息があるぜ」

巨大蜘蛛はまだ生きていた
しかし、その体は満身創痍でとても動ける状態ではない

隊員C「おおぃ、いい加減くたばれよ!」

巨大蜘蛛「ギ…」

支援A「あ?」


巨大蜘蛛「ギョォォォォォォォォォ!!!」ゴォォ


突如、巨大蜘蛛は森全体に響き渡るような叫び声を上げた

隊員C「どわッ!」

鍛冶妹「きゃ!?」

今までに無いほどの叫び声を上げたかと思うと、
巨大蜘蛛は完全に地面に鎮座し、絶命した

隊員C「ッ…!糞うるせぇんだよボケ!」

隊員D「なんつー鳴き声だ…断末魔か?」

自衛「…お前ら、ちょっと黙れ」

唐突に全員に黙るように言う自衛

支援A「あぁん?なんだよ急に…」

ズゥゥン…

支援A「あ?」

支援Aの疑問の言葉を区切るように、振動が聞こえて来た

隊員D「…なんだ?」

ズォン…!

音は川の対岸の森から聞こえてくる

隊員C「…かんべんだぜ、おい…!」

対岸から次第に近づいてくる振動

それに合わせ、木々が次々に倒れれいく音がする

ドゴォォォン!!

支援A「ワォ!」

隊員D「げぇ!?」


超巨大蜘蛛「ギャォォォォォォォ!!!」


対岸の木々が爆発でもしたかのように倒れ
先程の巨大蜘蛛の倍以上はある
超巨大蜘蛛が姿を現した

超巨大蜘蛛「ギュォォォォ!!!」ゴォォォ

鍛冶兄「ぐ…!?」

現れるなり、超巨大蜘蛛は咆哮を吐き出す

隊員D「仲間!?いや親蜘蛛か!?」

鍛冶妹「お、怒ってる…?」

支援A「PTAのお出ましだな!!ハッハー!」

隊員C「ふざけんな糞!隊員D手伝え!再装填すっぞ!」

隊員Cと隊員Dは無反動砲の再装填にかかる

超巨大蜘蛛「ゴギャァァァァァァッ!!」

超巨大蜘蛛はその体躯に見合わぬ器用な足裁きで、
中州や川に鎮座する岩を足場に、こちら側へと渡ってくる

自衛「下がれ、渡って来やがる!」

ドォォン!

巨大蜘蛛「ギャォォォォ!!」

渡って来た超巨大蜘蛛は再び鳴き声を上げた

隊員C「糞ごみ虫が!ふざけやがって!」

隊員D「おし!装填完了!」

隊員Dが隊員Cのテッパチを叩き、その場から離れる

隊員C「くたばりやがれ!」カチッ

ドォッ!


ボッガァァァァァ!!!


超巨大蜘蛛「ギャォォォォ!」

爆炎に包まれる超巨大蜘蛛

隊員C「一匹見たら30匹ってか?糞が!!」

爆炎が晴れ、超巨大蜘蛛の亡骸が現れると思われた

超巨大蜘蛛「……ギュォォ!」

しかし砲弾の直撃を受けたはずの超巨大蜘蛛は、再び動き出した

隊員C「あぁ!?」

隊員D「嘘だろ…?」

超巨大蜘蛛は表面の殻こそ少し焦げていたが、
致命傷を受けた様子は無く、川岸で踏み縮まっていた

隊員C「ふざけやがって!おい、再装填!」

隊員D「間に合わねぇよ!」

超巨大蜘蛛は体勢を整え、突進しようとしている

自衛「退避だ!」

言いながら、自衛は巨大蜘蛛目掛けて煙幕を投げ放つ
超巨大蜘蛛の周りに煙が立ち込める

自衛「逃げるぞ!森に入れ!」

全員が森の中へと走った



川沿いから数十メートルの森の中

隊員D「…撒いたか?」

隊員C「少なくとも見失ったみてぇだ…」

森の奥に逃げ込んだ後、各々は木々に身を隠しつつ周囲を警戒する

鍛冶兄「ぜぇ…くそ…!」

鍛冶妹「ひぃぃ〜…」

鍛冶兄妹はかなり体力を消耗しているようだ

隊員C「どこまでふざけてやがんだ!ハチヨン食らわせてもピンピンしてたぞ!?」

自衛「あぁ、主力戦車の正面装甲くらいはあるな」

隊員C「冷静に分析してる場合か!どーすんだ!」

隊員D「おい隊員C、焦るのもわかるがあまり叫ぶな…」

頭に血が上っている隊員Cを隊員Dがなだめる

支援A「しっかし、とーちゃんだかかーちゃんだか知らねぇが、
     大層お怒りのようだったな!」

自衛「ああ、なってねぇ糞親は死体袋へご案内しねぇとな」

隊員C「その死体袋へぶち込む方法を俺は聞いてんだよ」

自衛「…おい鍛冶兄、この森に奴を沈められる大きさの池か沼はねぇか?」

鍛冶兄「え、池?」

支援A「急に何言い出してんだお前ぇ?」

鍛冶兄「えっと…2スチルちょっと下流に行けば滝があって、
     その下が湖になってるけど…」

隊員C「で、それがなんだってんだ?」

自衛「簡単だ。やつをそこに誘い込んで、湖にダイブしてもらう。
奴は水に浸かるのを避けてるようだったからな」

隊員C「溺死させようってか?そりゃ虫が水に弱いのは定石かもしんねぇけどよ?アイツが
おとなしく肩まで浸かってくれると思うかぁ?」


自衛「おびき出したら、アイツの眼前出でて挑発するんだ。
     ヤツが突っ込んでくれば、それを避けて、化け蜘蛛はダイブだ」

鍛冶兄「…え!?」

隊員C「あぁ!?」

しれっと言ってのけた自衛の発言に一同は驚きを隠せなかった

支援A「正気か自衛!?」

隊員D「危険過ぎでは…?」

自衛「他にいい案があるなら言ってみろ、絶賛募集中だ」

一人冷静な口調で、一同を見渡す自衛

隊員C「…わーったよ、その最悪なまでにありがてぇプランを試すとしようぜ…」


しばらく森を進むと、再び開けた場所に出た

鍛冶兄「着いた、ここだ」

開けた場所は崖の上だった
そして崖の下には大きな湖が広がっていた
崖は湖に沿うように弧になっている
先程の川や、視線の遠く先には別の川が
滝になって湖へと流れ込んでいる

支援A「絶景ってやつだなおぉい!」

隊員D「予想以上に広いな…」

自衛「今は観光してる余裕なんざねぇぞ。
    隊員C、支援A、川の向こうに渡ってハチヨンを撃てるようにしとけ。
    それと、二人を安全な場所に退避させろ」

隊員D「俺等はどうすんです?」

自衛「あのバケモンをここまでおびき寄せる」

鍛冶兄「本気なのか?かなり危険だぞ?」

支援A「あんまりいい案とは思えねぇんだよなぁ…」

自衛「殺らなきゃ死ぬぞ、とっとと準備しろ。
    時間は多くねぇからな」

隊員C「だとよ、ありがたいお言葉に従うとしようぜ」

自衛と隊員Dは超巨大蜘蛛をおびき出すため、再び森へと入っていった

隊員C「さて、かかるとすっぞ」

支援A「川を渡んねぇとなんねぇよなぁ、面倒臭ぇ…」

隊員C「待った。おい、確かお前見える範囲ならジャンプできるっつったよな?」

準備を始めるようとする支援Aを止めつつ、鍛冶妹に尋ねる

鍛冶妹「へ?じゃ…?」

隊員C「転移魔法のことだ。向こうまで俺らを運べるかって聞いてんだよ」

鍛冶妹「あ、ああ…それくらいならできるよ。
     ただし転移の直前と直後は無防備になるけど…」

隊員C「支援A、予備弾よこせ。向こうは俺が先に行って警戒する。
     お前はこっち側から援護しろ」

支援A「分−った」

支援Aは弾薬袋を渡し、軽機を構える

隊員C「転移中はあいつが見張る」

鍛冶妹「分かった、ちょっと待って。兄貴、これ持ってて」

鍛冶妹は自分の斧と荷物を鍛冶兄に渡す

鍛冶兄「慎重にやれよ」

鍛冶妹「分かってるよ」

鍛冶妹は荷物を渡すと、少し離れた場所へと歩く

鍛冶妹「一緒に転移する人はできるだけあたしの近くに立って」

隊員C「あぁ?」

装備を持ち、鍛冶妹の目の前に立つ隊員C

隊員C「こんくらいでいいかよ?で、一体どうするってんだ?」

鍛冶妹「ん、そっから動かないで。あと詠唱中は変にうるさくしないでね?」

隊員C「へーへー、善処しましょうか」

鍛冶妹「ホント頼むよ…」

言うと鍛冶妹は自分の体を抱くような体勢をとる

鍛冶妹「スゥ…」

そして目を瞑り、軽く息を吸い込むと詠唱を始めた

鍛冶妹「…………」

しばらく詠唱し続ける鍛冶妹を、隊員Cは懐疑的な目で見ている

鍛冶妹「…………」

支援A「…よぉ、何も起こんねぇぞ?」

鍛冶兄「もう少しだ」

その次の瞬間だった

鍛冶妹「……ッ!」

バシュゥッ!

支援A「ウワォッ!?」

鍛冶妹の口が止まると同時に、風が切るような音がし
突然隊員Cと鍛冶妹の姿が消えた

支援A「おい、ヤツらは?」

鍛冶兄「対岸に出てくるはずだ」

一拍置いて、皮の向こう岸に二人の姿が現れた

支援A「…アンビリーヴァヴォーだぜぇ…!」


対岸では詠唱を終えた鍛冶妹が体勢を解く

鍛冶妹「…っ、無事着いたよ」

隊員C「あ?別に何も起こって…
     ホントかよおい…!」

隊員Cが立っているのは確かに川の対岸だった

隊員C「一瞬視界が揺れたような気はしたけどよ…マジでジャンプしやがった…」

支援A「ヘーイ!隊員C、見えてるか!?」

対岸では支援Aが大笑いしながら手を振っている

支援A「結構心臓に悪い消え方しやがったなぁ!」

隊員C「勘弁してほしいねぇ、本気でありえねぇぜ!」

悪態を吐きながら頭を掻き毟る隊員C

鍛冶妹「…何に怒ってるのか知んないけど、あたし達からすれば
     ありえないのは君達の方だかんね?」

隊員C「ああそうかい、じゃあお互い様だな?
     こっち見張ってっから、とっとと向こうの二人を運んで来い」

鍛冶妹「はいよー…」


自衛と隊員Dは来た道を戻りつつ、超巨大蜘蛛を探す

自衛「ハシント応答しろ。ジャンカー4だ」

自衛は蜘蛛を探しつつ、指揮車と通信を行っていた

82車長『自衛か!?おい、大丈夫なのか!?さっきから爆音やら妙な叫び声みたいなのが
     ここまで聞こえて来てるぞ!?』

自衛「ああ、例の巨大蜘蛛は黙らせたが、その親みたいなのが出てきてな。
    こっちは今、一時退避中だ」

82車長『ホントかよ…待ってろ。川沿いから森に指揮車が入れそうだ。
     そっちに応援に向う。』

自衛「やめとけ。こんな狭い森の中で奴相手じゃ、
指揮車じゃ返って危険だ」

82車長『そんなにヤバイ相手なのか…?お前らはどうすんだ!?』

自衛「わめくな、こっちはこっちでプランがある。
それより武器を揃えて森の出口を見張ってろ。
    蜘蛛のバケモンだろうが皺のブサイクだろうが、とにかくそこを通すな!」

82車長『わかったわかった…だが、なんかあったらすぐに連絡をよこせよ?』

自衛「了解、交信終了」

隊員D「…士長、いいっすか?」

自衛「あ?」

隊員D「正直な話、俺は無理にあいつを倒さなくても良いと思うんですが?」

自衛「なんでそう思う」

隊員D「最初の蜘蛛もあの親蜘蛛も、体中に土やコケがついてました。
     んでもって鍛冶屋のにーちゃんは、この森であんなバケモンは見たことねぇと言ってた。
     あの蜘蛛共、かなり長いこと眠りについてたんでしょう」

自衛「おそらくな」

隊員D「あいつらきっと起こされて上に住処を荒らされたから
     腹立ててるんだと思います。
     俺達が森から出て行けば、それ以上は手を出してこねぇんじゃないですか?」

自衛「確証が無ぇ。起きた原因が俺達やあの皺共とは限らねぇぞ。
    第一、あいつの仲間だかをあの世送りにしちまってるしな」

隊員D「まぁそうですが、奴と真正面からぶつかんのは…っとぉ!?」

言いかけた隊員Dは、自分の足裏にグニッという妙な感覚を感じた

隊員D「なんだぁ?…げ」

隊員Cが踏んだのは、生き物の腕だった
肘と思われるあたりで千切れ、血液が地面に染み出ている

隊員D「なんじゃこりゃぁ…」

自衛「皺共のパーツだな。見ろ、そこらじゅうに転がってる」

周囲にはゴブリンの体の一部らしき物が複数転がっていた

隊員D「…悲惨だなおい…こいつらも襲われたのか?」

周囲を見渡していたその時だった

ガサガサ

近くの草むらが音を立てて揺れる

隊員D「ッ!…おいおい」

バッ!

ゴブリンの群れ「キィィ!」「キキッ!」

草むらから複数のゴブリンが飛び出し、襲い掛かって来た

隊員D「また出やがった!うぜぇ!」

自衛「自分の命を大事にしねぇ奴らだ」ジャッ

ゴブリンを迎撃しようとしたその時だった

ズォォン…

自衛「…糞ったれが」

聞きなれた地響きに、自衛は悪態を吐き
ゴブリン達も動きを止める

ズォォォン…!

森の中のせいか、地響きの方向がいまいちはっきりしない

隊員D「どっちからですか!?」

自衛「わからん、よく聞き分けろ」

その次の瞬間だった

ドゴォォォォォン!

超巨大蜘蛛「ギャォォウ!」

ガブゥッ!

ゴブリンの群れ「ギ!?」「ギョ…」ブシュッ

隊員D「げぇ!?」

木々を薙ぎ倒し姿を現した超巨大蜘蛛は、
そのまま大口を空けてゴブリンの群れに突進
数匹いたゴブリンの群れを一のみにした

自衛「笑えねぇ冗談だな」

ドォン!ドォン!

こちらに向き直る超巨大蜘蛛

ゴギュ…ゴギュ…ボトリ

不気味な音を立てて動く超巨大蜘蛛の口から、
ゴブリンの体の一部がこぼれ落ちる

隊員D「あの野郎…ゴブリン食ってやがる…!」

超巨大蜘蛛「ギャァァァァァァ!」

向き直った超巨大蜘蛛は、口内の噛み砕かれたゴブリンと共に咆哮を吐き出す

隊員D「どわっち!」

自衛「食ってる最中にさけぶんじゃねぇ、糞虫が!」ジャッ

自衛は小銃に装填しておいたてき弾を超巨大蜘蛛の顔に向ける

ボウッ!

ズガァァン!

超巨大蜘蛛「ギュァァァァ!」

てき弾が頭部に命中し、超巨大蜘蛛は一瞬怯む

自衛「走れ!」

その隙に自衛達は超巨大蜘蛛から離れ、湖の咆哮へと走った

自衛「隊員D、お前の意見は却下だ。あの肉食のバケモンを森から出すわけにゃいかねぇぞ」

隊員D「あー、わかりましたよ…なんとかしましょう!」

自衛と隊員Dは超巨大蜘蛛をおちょくりつつ森を移動、
やがて崖へとたどり着いた

森から飛び出した自衛達は、森のほうに振り返る

自衛「隊員C!そっちは準備できてるだろうな!?ヤツがもうすぐ来るぞ!」

隊員C『いちいち言わんでも分かってるよ。こっちは対岸だ、いつでも撃てる。』

川の向こうに隊員C達の姿が見える

自衛「鍛冶兄妹は退避させただろうな?」

隊員C『後ろの岩に隠した。そのまま突っ立たせとくよりはマシだろ?』

自衛「いいだろう。射撃のタイミングはそっちに一任する、ヤツが隙を見せたら撃て」

隊員C『言われるまでもねぇよ』

自衛「とにかくヤツの息の根を止めることだけ考えろ、頼むぞ。」
    隊員D、携帯放射器をよこせ」

隊員D「へい…よっと、どうぞ!」

隊員Dは背負っていた携帯放射器を降ろし、自衛へと渡す

自衛「森から出てきたあいつを炎でビビらす。ヤツが怯んだら、後は手筈通りにだ」

隊員D「了解」

ドゴォォォン…

森の奥から、もはや聞き飽きた振動が聞こえて来た

隊員D「っと」

自衛「来やがったな」

ドッゴォォォォォン!

超巨大蜘蛛「ギシャァァァァ!!!」

超巨大蜘蛛は木々や草を薙ぎ倒し、土煙を纏ながらその姿を現した

自衛「よぉー、元気か?」

超巨大蜘蛛「ギャァァ」ズッ

自衛達を見つけ、その巨体を身構える超巨大蜘蛛

隊員D「怒れるタイタンのおでましだ」

自衛「さぁて、ビビッてもらうとしようぜ」ジャキ

超巨大蜘蛛「ギシャァァッ!」グォッ

超巨大蜘蛛が攻撃に移ろうとした瞬間、超巨大蜘蛛の頭部目掛けて火炎放射器のトリガーを引いた


自衛「ウォラァァァァァァッ!!!!」

ゴォォォォォォォォォォ!!!!!


超巨大蜘蛛「ギャゥゥゥ!?」ザザッ

突然の炎に超巨大蜘蛛は体勢を崩し、数歩退いた

ダメージは殻の表面が少し焦げた程度だったが、牽制としての効果は覿面だった

自衛「走れ!」

超巨大蜘蛛が怯んだ隙に、自衛と隊員Dは崖に向けてダッシュした

超巨大蜘蛛「ギュゥゥ…ギャォォォォ!」ドォォッ

体勢を立て直した超巨大蜘蛛は、驚かされたことに腹を立てたのか、
叫び声を上げながら猛突進して来る

隊員D「来やがった!」

自衛「よぉし、左右に飛べ!!」

崖際少し手前までダッシュした自衛と隊員Dは、
超巨大蜘蛛がギリギリまで近づいた所で両脇に飛んだ

超巨大蜘蛛「ギャォォ!?」

突然の事態に驚く超巨大蜘蛛

ドガッ!

超巨大蜘蛛は自分の足を地面に突き刺し、ブレーキを掛けた

ズズズズズッ!

そしてその巨体をしばらく引きずったのち、ギリギリの所で踏み留まった
地面に超巨大蜘蛛の足の後が残る

隊員D「あーあ…」

自衛「そう簡単にダイブしちゃくれねぇようだな」

超巨大蜘蛛「ギャォォ!」グォ

踏み止まり体勢を立て直した超巨大蜘蛛は、自衛の方を向く

隊員D「士長、こいつに懐かれたみたいっすよ」

自衛「生き物には、俺様の魅力がよくわかるのさ」

隊員C『言ってろ』

超巨大蜘蛛「ギャァァァァァァ!」グォォ

超巨大蜘蛛は前足を振り上げると、自衛目掛けて振り下ろした

自衛「危ねぇッ!」ダッ

ドガッ!

跳躍し攻撃を逃れるが、さらに別の足が襲い掛かる

自衛「のろまがぁッ!」バッ

ドゴォッ!

しかし次の攻撃も横転して避けて見せる自衛

自衛「っと、そんなんじゃ退屈だぞ!あぁ!?」

体勢を整えた自衛は、さらに超巨大蜘蛛を挑発する

超巨大蜘蛛「ギャガァァッ!!」グォォッ

痺れをきらしたのか、超巨大蜘蛛は体全体を振り上げ
前足を一斉に振り下ろそうとする

ドッゴォォォォォォ!!!

超巨大蜘蛛「ギャォォォォォォ!?」

だが振り下ろす前に、超巨大蜘蛛の胴体は爆炎に包み込まれた

隊員D「おわっと!?」

隊員C『腹が丸出しなんだよ、糞虫が!』

対岸から隊員Cがハチヨンを撃ったのだ

超巨大蜘蛛「ギギ…ギュァァ…」

ドゴォォッ!

バランスの悪い体勢で攻撃を食らった超巨大蜘蛛は、
土煙を上げ、地面へへたり込んだ

自衛「おー、やべぇやべぇ」

隊員C『どうだ自衛!?そいつ死んだか!?』

自衛「いんや、まだ生きてやがる」

超巨大蜘蛛は表面の殻こそ焼け焦げているが、
その体をゆっくりと起き上がらせようとしている

隊員C『どこまでふざけてやがんだ!』

自衛「だが、いいタイミングだった。普段からそれくらい気をきかせたらどうだ」

隊員C『じゃあお前の給料全部よこせよ、糞ったれ』


対岸

自衛『お前ぇにやるくらいなら燃やして捨てるさ。それより次の射撃準備をしとけ!』

隊員C「ああ、分かったよ糞が。支援A、手ぇ貸せ」

支援A「全然くたばんねぇなあの野郎?」

隊員Cと支援Aは無反動砲の再装填を始める

鍛冶兄「…ありえねぇ…」

鍛冶妹「夢でも…みてるのかな…」

一方、後ろの岩陰に隠れるよう言われた鍛冶兄妹が
そこから対岸の戦闘の様子を見ていた

鍛冶兄「さっきの見たか…?」

鍛冶妹「自衛って人…ブレスを吹いたよ…?」

隊員C「おいお前ら、下手に頭出すな!おとなしくしてろ!」バックブラストで黒焦げになりてぇか!?」

鍛冶兄「そうは言われても…あんたら本当に何者なんだ!?
     俺にはもう分けがわからない!」

隊員C「後でうんざりするくらい説明してやるよ!いいからじっとしてろ!」

支援A「おい、あいつ見ろや!」

支援Aが超巨大蜘蛛を示す
起き上がった超巨大蜘蛛はこちらに気がついたのか、頭をこちらへと向けた

鍛冶妹「ひぃ…!」

隊員C「ああ糞!」

支援A「こっちに気がつきやがったぜ!」

その瞬間、超巨大蜘蛛に火炎が襲いかかった
炎を浴びせかけられ、
超巨大蜘蛛の注意は、再び対岸の自衛達に向いた

隊員C「おし!今のうちだ、さっさと装填しちまうぞ!」

鍛冶兄「……神兵……」


再び自衛側

自衛「余所見厳禁だボケ!」

再び火炎を浴びせかけ、超巨大蜘蛛の注意をこちらに戻させる

超巨大蜘蛛「ギャァァ…ギシャァァァァ!!」

超巨大蜘蛛は一瞬どちらを優先すべきか悩んだようだったが
結局こちらへと向き直った

隊員D「ハンパに脳みそ使ってんじゃねぇよ!」

超巨大蜘蛛「ギュァァァ!」ゴァッ

向き直った超巨大蜘蛛は再び突進を仕掛けて来た

隊員D「おわッ、来る!」

自衛「飛べ!」

ドッゴォ!

隊員D「どわっ!?」

超巨大蜘蛛「ギャァァ…ッ!」ズズズッ

しかし超巨大蜘蛛は、ほんの数メートル進んだ所で突然体勢を崩し
その巨体を地面に引きずった

隊員D「勝手に倒れやがった!?」

超巨大蜘蛛「ギュァァァ…!」ノソッ

超巨大蜘蛛は体を起こすが、その動作は目に見えて鈍くなっていた

自衛「隊員Cいい知らせだ。どうやらハチヨンのダメージは通ってるみてぇだぞ」

隊員C『見えてる。二発もぶち込んだんだ、殻は無傷でも内臓は無事じゃねぇだろうよ。
     そうでもなきゃやってられっかよ!』

超巨大蜘蛛「ギュォォォ…ギャゴォォォォ!」

ドガッ! ドガッ! ドガッ!

隊員D「どわぁ!」

自衛「やべぇッ!」

起き上がった超巨大蜘蛛は突如、めちゃくちゃに足を振り下ろし始めた

ドゴォ! ドガッ!

隊員D「めちゃくちゃに攻撃して来やがるぜ!」

自衛「ぶちキレやがったな。隊員C、こいつを黙らせろ!」

隊員C『待ってろ!』

対岸で隊員Cは無反動砲を構える

隊員C『…ああ糞が、動き回んな…』カチッ

ゴァッ!

対岸から再び無反動砲弾が発射される

ボッガァァァ!

隊員D「うおッ!?」

しかし弾頭は大きく動く超巨大蜘蛛には命中せず、超巨大蜘蛛の足元で爆破した

隊員D「馬鹿、ちゃんと撃てよ!」

隊員C『文句言うんじゃねぇ、糞が!』

超巨大蜘蛛「ギャァァァァァァ!」

ドゴォ!

超巨大蜘蛛は最後の一撃を振り下ろした後、
攻撃を止め、数歩引き下がった

超巨大蜘蛛「ギャァァァッ!!」ゴォォ

超巨大蜘蛛もかなり疲弊しているようだが、
それでもは退く気配はまったく見られず、叫び声を上げる

自衛「いい加減くたばれよ!おいコラぁ!?」

咆哮に対して怒り返したその次の瞬間だった

ゴゴ…

自衛「…あ?」

隊員D「ん?」

突如、付近から伝わってくる微かな振動音

ゴゴゴゴゴ…!

隊員D「な、なんだぁこの音?またお仲間か!?」

自衛「いんや、…こいつは違う」

ゴゴゴゴゴ!

ピシピシピシ…

振動音は次第に大きくなり、地面に微かに亀裂が走る

隊員C『おい、自衛!』

自衛「分かってる、わめくな!」

わずかに走った亀裂は瞬く間に全体へ広がってゆく
そして

ビシッ

ゴッシャァァァァ!!!!!

自衛「げぇッ!」

隊員D「うぉぁッ!?」

超巨大蜘蛛「ギシャァァァァァ!?」

自衛達のいる崖際一体が崩壊した

無反動砲による衝撃や、暴れまわる超巨大蜘蛛の重圧に、
湖際の水気を含んだ地面は耐え切なかったのだ

崩壊した一体は土砂となり、雪崩のように湖へと流れ落ちてゆく

超巨大蜘蛛「ギシャァァァァァ!!?」ズズズ

土砂に流され、超巨大蜘蛛は崩壊によってできた斜面を滑り落ちて行く

隊員D「やばッ!あっぶねぇな!って…士長!?」

自衛「ふざけやがってッ!!」

隊員Dはなんとか崩れた範囲外へ逃れたが、
自衛は地面の崩壊に巻き込まれ、土砂と共に数メートル流される

自衛「どぉらッ!」ドスッ

途中で地面の裂け目に鉈を突き立て、どうにかで留まった

自衛「やっべぇやっべぇ」

隊員C『おい自衛無事かよ!?』

自衛「一応な!愉快じゃねぇアトラクションだ!」

一方の超巨大蜘蛛も、落ちるギリギリのところで斜面に足を突き立て
落下を間逃れていた
上ろうにも斜面の土は脆く、別の足を突き立てようとしてもすぐに崩落してしまう
今、超巨大蜘蛛の足を掴み支えている地面も長くは持たないだろう

超巨大蜘蛛「ギシャァァ!!ギィギャァァァァオ!!」

超巨大蜘蛛はその怒りと悔しさをぶつかるかのように
目の前にいる自衛に対して叫び上げる

自衛「なんだ馬鹿ヅラでファビョりやがって。
楽しいダイビングを用意してやったんだぞ?」

超巨大蜘蛛「ギャァァ!」ガブッ バクッ

挑発が理解できるのか、超巨大蜘蛛は自衛を食い殺してやりたいとばかりに
そのおぞましい口内を覗かせながら、バクバクと口を動かす

自衛「気色悪ぃモン見せやがって、俺がお食事中だったら殴り倒してる所だ」

趙巨大蜘蛛「ギュォォォォォォォ!!!」

自衛「空腹のお前にいいもんをご馳走してやるよ」

そう言うと自衛は手榴弾を掴みだした
ピンを抜き、それを大きく開かれた超巨大蜘蛛の口目掛けて放り込んだ

超巨大蜘蛛「ギュ…?」

手榴弾はいとも容易く口の中へと入り込み
そのまま超巨大蜘蛛の喉の奥へ

そして数秒後


ボゴォッ


超巨大蜘蛛「ギュゴォォォォォォォ!!!?」

超巨大蜘蛛の体内から鈍い爆発音が聞こえ、
それと同時に、超巨大蜘蛛は今までに無い苦痛の叫び声を上げた

趙巨大蜘蛛「ギャシャァァ!?ギギュァァァァ!!?」

痛みにもがき苦しみ、大きく暴れる
それに耐え切れず、ついに趙巨大蜘蛛の足を掴んでいた地面が崩壊した

趙巨大蜘蛛「ギャァァァァァァァァァァ!!!」

その巨体は崖を離れ、超巨大蜘蛛は大量の土砂、
そして森中に響き渡るかのような断末魔と共に
眼下の湖へと落下していった

ボッシャァァァァァン!

盛大な音と水しぶきを上げて湖に沈む超巨大蜘蛛

超巨大蜘蛛「…ギャァァ…!ギシャァァァ!」バシャバシャ

沈むまいと必死にあがく超巨大蜘蛛だったが、
仰向けになり、なおかつ内外共にダメージを負った体ではそれも無意味な行為だった

隊員C『どうするよ!?どてっ腹にもう一発叩き込むか!?』

自衛「必要無ぇ、じき沈む」

超巨大蜘蛛「ギャァァッ!ギャッ…!ギュォォォ……」ボシャッ グブッ

死に物狂いでもがいていた超巨大蜘蛛だったが
数十秒後には、その巨体を完全に湖へと沈めた

自衛「…あばよ」

言うと自衛は銃剣と鉈をピッケル代わりに、崩れた斜面を上る

隊員D「士長!」

自衛「隊員D、手ぇ貸せ」

隊員Dの手を借り、自衛は崖の上に登り付いた

隊員D「肝が冷えましたよ…やりましたね」

自衛「ああ、かなりサプライズだったが、結果オーライだ」

振り返ると、湖では未だに不規則な波が起こっている
湖には超巨大蜘蛛のシルエットが浮かんでいた
超巨大蜘蛛は沈んでもなお、湖のそこでもがき続けているようだ

隊員D「なんて生命力だよ…」

自衛「ああ、ぞっとしねぇ。だが、じき息絶える」

シルエットの動きは見る見る内に鈍くなり、やがて完全に動きを止めた

自衛「くたばったか」

隊員D「南無阿弥陀仏…っと」

支援A『おい、下見てみろよ』

隊員C『こりゃ選び放題だな。探す手間が省けた』

対岸の支援A達が眼下を覗き込んでいる

眼下の湖の周りには今まで以上の草木が生い茂り、巨大な木も多数見受けられた

隊員D「まさに大自然!ってな」

隊員C『だがよ自衛、切り出しはさすがに明日に回してもらうぞ。
    じゃなきゃ俺はこの場で辞表を書き出すからな!」

自衛「お前が辞めようと知ったこっちゃねぇが、前半は尊重してやるよ。
  記録写真を撮って撤収だ」



数十分後 燃料探索隊野営地

自衛達は森を出て82車長達と合流
野営地へと帰還した


補給「…信じられん…」

補給はデジタルカメラの画面を見ている
画面には最初に倒した巨大蜘蛛が映っている

補給「本来なら合成写真を疑うところだ…」

巨大蜘蛛の横には対比の目安にと、
勝手にキメポーズを決めた、自信満々の顔の支援Aが写っている
ボタン操作で次の画像に移ると
今度は崖の上から写した、湖に浮かぶ超巨大蜘蛛のシルエットの画像

自衛「信じられねぇのも無理はありませんが、こいつらは全部ホンモンです。
    デカい方に関しちゃ、殻の固さは戦車並みはあります」

補給「そんなにか…?」

自衛「84mm弾を食らわせても貫通できませんでした。
    もっとも、内臓にダメージは入ってましたが」

82車長「とんでもねぇな…」

自衛「幸いにも帰り道で遭遇はしませんでしたが、他に居ないとも言い切れません。
    増援が到着したら捜索したほうがいいでしょう。
    それまでは、森の入り口に対戦車火器を集中して、見張っとくべきです」

補給「そうだな…分かった、交代で監視を行おう」

82車長「そういや、適当なデカさの木が見つからねぇって聞いたけどよ?」

自衛「それは問題ねぇ。親玉を沈めた湖の周辺に
バーゲンセールみたく巨木が生えてたからな。
補給二曹、明日は捜索と平行して運び出しを」

補給「なんにせよ本格的にかかるのは増援が到着してからか…
    所で、あの兄妹は大丈夫だったのか?」

自衛「ああ、疲労こそしてましたが、怪我等は特には。
    一応、衛生に見させてから家に送り届けました」

補給「本当に犠牲が出なかったのは何よりだったな…。
    よし、82車長。施設A三曹と監視組の編成をしてくれるか?」

82車長「了解、すぐにかかります」

補給「頼む」

82車長は返答後すぐにその場を後にした

補給「自衛、ご苦労だったな。他の作業は引き続き行うが、
そっちは夕方まで休憩してくれ」

自衛「どうも」


野営地内


自衛「っつーわけだ、俺等は夕方までフリーだ」

野営地内で休憩しつつ待機していた隊員C達に
その報を伝える自衛

支援A「やったぜ!」

隊員C「あー、ありがてぇ…どうせならこのままリゾートで休暇といきたい所だなぁ!」

ジープの後席でだらけていた隊員Cはそんなことを言う

自衛「おめぇみたいなのが行ったら、公共公害もいいとこだ」

隊員C「うるせぇ!」

隊員D「とにかく飯にしようぜ、飯」

隊員C「よーやっと昼飯だぜ…」

各々はテント内からパック飯を引っ張り出したり、
焚き火や鍋の用意にかかったりと昼食の準備にかかった


数分後


支援A「っつーかよ、結局なんだったんだ?あの化け物蜘蛛ちゃんはよ?」

支援Aがパック飯を口にしつつ、そんなことを言い出す

隊員C「知るかよ、知りたくもねぇ」

隊員D「鍛冶の兄ちゃんは、あの森で巨大蜘蛛どころかゴブリンも
     見たことは無かったみたいだが」

自衛「東の街での件もある。ゴブリン共はまたどっかから移動してきたんだろうが」

隊員C「民族大移動ならぬゴブリン大移動だな!糞迷惑この上ねぇよな!」

隊員D「まぁ…ゴブリン共に関しちゃ、奴らにも都合があるんだろうけどよ」

支援A「じゃあ蜘蛛のバケモンも、どこぞからお引越ししてきたってのか?」

自衛「どうだかな。その可能性もあるが、ここらの連中がヤツの存在を
    知らねぇだけかもしんねぇ。隊員D、お前言ってただろ?」

隊員D「ええ。ヤツ等、体に大量にコケがへばり付いてましたし、
    地中かどっかで長いこと眠ってたって事も考えられます」

支援A「そのおねんねしてた大蜘蛛ちゃん達が、なんで起き出してきたんだよ?」

隊員C「どうせあの皺共がちょっかいだしたんだろ?こっちゃいい迷惑だ!」

隊員D「そうかねぇ?…そういや士長。鍛冶んトコの親父さん、
    昔はあっちこっち冒険してたって、あの兄ちゃん言ってましたよね?」

自衛「あ?あぁ、言ってたな」

隊員D「もしかしたらあの蜘蛛について、なんか知ってるかもしれませんよ?」

隊員C「アテになるかよ、んなもん」

自衛「聞いてみれば分かる。隊員C、飯食ったらもっぺん鍛冶の所を訪ねるぞ」

隊員C「あぁ?なんで俺なんだよ!?」

自衛「最初に遭遇したのはお前だろ。そん時のことを話せ」

隊員C「ああ分かったよ…面倒臭ぇ」

支援A「相変わらずの貧乏クジだな、隊員C」

隊員C「ああそうだな、今なら絶賛大凶増量中ってか?クソッタレ」

愚痴りながら、隊員Cは残りわずかの糧食の味噌汁を飲み干した


鍛冶一家の家


コンコン

自衛は玄関のドアをノックする

鍛冶兄「…はい?ああ、君達か」

数秒置いて、ドアが開き鍛冶兄が姿を現した

自衛「ワリィな、さっきの今で。お前らの親父さんに聞きてぇことがあってよ」

鍛冶兄「分かってる。巨大蜘蛛のことだろ?俺も親父に話そうと思ってたんだが…」

鍛冶兄は家の奥に振り向き、裏口の扉を見る

鍛冶兄「親父は今、鉄を打ってる最中なんだ。邪魔するとうるさいもんだから、
少し待ってくれるか?」

自衛「ああ、かまわん」

鍛冶兄「入って待っててくれ」

屋内に入り、家の中を見渡す

自衛「ねーちゃんはどうした?」

鍛冶兄「自分の部屋だ。走り回ってへばったみたいでな」

隊員C「そいつはご心配なことだ。俺達だってクソみてぇにダリィんだ! 
    とっとと親父殿を引っ張って来て欲しいんだがなぁ?」

自衛「隊員C、黙ってろ。壊れたラジオよりうるせぇ」

隊員C「ああ、分かった分かった。クソだぜマジで…」

悪態を吐きながら、隊員Cは勝手に近くの椅子にドカッと座る

その時、裏口のドアが開き、木箱を持った鍛冶が入ってきた

鍛冶兄「お、親父。終わったのか?」

鍛冶「なんだ帰ってたのか」

鍛冶兄「少し前にな」

鍛冶は自衛達の存在に気がつき、あまり歓迎的ではない表情を浮かべたが
すぐに顔を反らし、打ち終えた鉄の入った木箱を置く

鍛冶「鍛冶妹は?」

鍛冶兄「部屋で休んでるよ」

鍛冶「はぁ?案内だけでそんなにへばったのか?
いくら貧弱だからって、しょうがねぇヤツだ…」

鍛冶兄「あー、それなんだけどよ…ちょっと話しがあるというか…」

鍛冶「?」

鍛冶兄「どっから話すか…」

どう切り出すか悩んでいる鍛冶兄に代わって、自衛が切り出した

自衛「親父さんいいか?あんたに聞きてぇ事がある」

鍛冶「あん?今度はなんだ?地下油の次は何の探し物だ?」

自衛「俺達は森ん中で、馬鹿デカい蜘蛛のバケモンに襲われた。
そいつについてなんか知らねぇか?」

その言葉に鍛冶はますます妙な表情になった

鍛冶「蜘蛛の化け物だぁ?何を妙なことを…あの森には小動物くらいしかいねぇはずだぞ」

自衛「所がな、どっこい居たんだこれが。隊員C、カメラよこせ」

隊員C「ほらよ」

隊員Cからデジタルカメラを受けとると、
自衛はボタンを操作し、蜘蛛の写った画面を表示させ

鍛冶の目の前にやや強引に差し出した

自衛「こいつを見ろ」

鍛冶「あ?な、なんだ?」

デジタルカメラを目の前に出され、やや困惑する鍛冶

鍛冶「…なんだこりゃ…!?」

だが、画面を見た次の瞬間には驚きの表情に変わった

鍛冶「絵かこいつは?しかし…」

デジタルカメラ画面に写った、川原の情景をまじまじと見つめる

鍛冶兄「あー、彼らの使う道具らしいんだ。ソレを通して見た物や風景を
     寸分違わず絵にして記録する、って物らしいんだけどよ…」

鍛冶「…」

自衛「で、俺等が言ってるバケモンってのは、そん中に写ってるヤツだ。
    画面の左に蜘蛛が写ってるだろ?で、その隣で馬鹿やってんのが内のヤツだ。
    分かるか?こいつがどんだけ馬鹿デケェか」

自衛は画面の巨大蜘蛛と支援Aを見比べさせながら説明する

鍛冶「本当かよ…」

自衛「トリック無しのホンモンだ。隊員Cとおたくの妹さんが
    いきなり現れたこいつに追い掛け回された」

自衛は画面を操作し、湖に沈んだ超巨大蜘蛛を表示させる

自衛「その後にこいつだ。親蜘蛛らしいコイツが現れて、こいつとドンパチになった。
    沈めてぶっ殺したから、画像じゃわかりにくいと思うが」

鍛冶「…さっきのを見せてくれ」

再び先程の画像を表示する

鍛冶「こいつは…」

自衛「他にもあるぞ」

自衛は他の角度から写した画像を表示してゆく

鍛冶「間違い無い…こいつはダイチグモだ」

鍛冶兄「だ、だいち蜘蛛…?」

隊員C「土蜘蛛じゃなくて大地蜘蛛か。大層な名前だな?」

自衛「ああ、確かにな。で、こいつに関して知ってんなら教えてほしいんだが?」

鍛冶「ダイチグモ。こいつは一生のほとんどを地中で過ごす生き物だ。
    他の生き物の少ない所で親蜘蛛が地中に巣をつくり、数匹の幼体産みを育てる。
    幼体はある程度育つと、夜間に他の生き物の目を避けつつ、
    他の地へと旅立つ、これがほぼ唯一外に出る瞬間だ。親はそこで生涯を終える。
    だからこいつらを人が目にする事はほとんどない。
    …なるほど、コイツなら住んでても気付かねぇえわけだ」

自衛「親はこの沈んでるヤツか?」

鍛冶「これは父蜘蛛だな。こいつらは、正確には体の大きい母蜘蛛が
    地中でそのまま巣になって幼体を育てるんだ。
    そして、父蜘蛛と子蜘蛛の中でも早く成長したやつが巣を守る」

鍛冶兄「最初の蜘蛛はその早く成長した蜘蛛かか…」

隊員C「…あ?おいちょっと待て。つまりこいつよりデカいヤツが
    まだ森ん中にいるってことかよ、冗談じゃねぇ!?」

鍛冶「言ったろ、母蜘蛛が直接巣になるって。
    母蜘蛛は番になって幼体を生んだ時点でほとんど動けなくなる。
    どこかで地面と一体化してるはずだ。それを父蜘蛛達が守るんだ」

隊員C「大自然の中の家族愛ってか。こっちゃ涙じゃなくて血を流すところだったがよぉ」

自衛「一応、生態系はだいたい分かった」

鍛冶「そうか…所で、こいつが襲って来て、追い掛け回されたっつってたな?」

自衛「ああ」

鍛冶「ダイチグモは図体はでかいが穏やかな生き物だ。
    こっちから手を出さない限り、攻撃してくることはないし、
    たとえ手を出しても敵を追い払うだけで、
    追って来るなんてことはしないはずだぞ…」

隊員C「ああそうかい、じゃあその知識を書き換えるんだな!
    こいつは向こうから突然現れたかと思うと、
    いきなり追っかけてきやがって、その場でマラソン大会だ!」

鍛冶兄「お、落ち着けよ…!」

鍛冶「そもそも巣から離れることすらしないはずなんだが…どうなってんだ?」

隊員C「こっちが知りてぇよ、クソッタレ」

自衛「なんにせよ、俺等からは別に難癖付けちゃいねぇ。
    ゴブリン共が何やらかしたかは知らねぇけどよ」

鍛冶「は、ゴブリン?」

鍛冶兄「あ、ああ。森に現れたのは蜘蛛だけじゃないんだ。
     ゴブリンの群れがそこらじゅうから現れてよ」

鍛冶「なんだと…嘘だろ?」

自衛「悪ぃ冗談に聞こえるかしんねぇが、本当だ。
    あいつらどうにも異常発生してるみてぇだ。
    ゴキブリみてぇにな」

鍛冶「…」

鍛冶兄「一体どうなってるんだろうな…こんなこと今までなかったのに」

鍛冶「……まさかな……」

鍛冶兄「?」

自衛「しかしあんた、ずいぶん詳しいようだが?」

鍛冶兄「俺もビックリだ。今まで鉄や武器にしか興味が無いと思ってたのに?
     どこでそんな知識を仕入れたんだよ?」

鍛冶「…昔、本で読んだだけさ」

自衛「とにかく、あんたの話からすると、これ以上のデカブツが現れる事はねぇってことだな?」

鍛冶「ああ、状況を聞く限りじゃ。必ずとは言えないが…」

自衛「十分だ、後はこっちでなんとかする。悪かったな押しかけて。
    隊員C、行くぞ」

隊員C「やっとかよ…」

自衛と隊員Cは野営地へと戻っていった


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